アートディレクションするときは、写真と写真集は別物だと伝えます。

町口 覚 art director /graphic designer

この写真家の写真集を造りたいと強く思わなければ、写真集なんて難しい仕事は最初からしませんよ(笑)。

写真集レーベル「M label」を主宰し、新進気鋭の写真家たちの写真集を数多く手掛けることで知られる町口氏を突き動かすもの。

写真に込められた想いが伝わると、気持ちが動く

---アートディレクター、グラフィックデザイナーという自身の仕事をどのようにとらえていますか?

デザインは二次的産業だと考えています。アートでもなんでもない。例えば、小説家が小説を書かなければ装丁はできないし、写真家が写真を撮らなければ写真集は造れないし、映画や演劇の公演がなければポスターはデザインできない。

要するに、他者との関わりがなければ、僕は仕事になりません。しかし、そういう二次的な仕事だからこそ面白味を感じています。自分から進んで絵を描きたいとは思わないけど、小説や写真などに込められた想いが伝わると気持ちが動きます。この写真家の写真集を造りたい、と強く思わなければ、写真集なんて難しい仕事は最初からしませんよ(笑)。

---写真集のアートディレクションが多いですよね。

そんなに多いですかね(笑)。写真集をアートディレクションする際に僕が心掛けていることは、写真と写真集はまるで別物だということを著者である写真家に伝えることです。今現在の写真集は少なくとも印刷メディアです。印刷して製本するのであれば、印刷して製本する中でのベストなもの造りを目指そうということでもあるんです。

---印刷についてはかなり専門的な知識があるとか。

例えば、僕に印刷の知識が無ければ、印刷現場でいろいろな指図は出せませんよね。そういう、人として失礼なことはあまり好きじゃないので、印刷現場の職人さんたちに、とことん引っ付いて回って教えてもらいました。本当によく飲みましたよ(笑)。

いい仕事には、造る人の生き様が表れる

---どんな影響を受けて、そこまで専門的になったのでしょうか?

いい仕事をする人は、その印刷や製本にまで、その人の生き様が表れます。ものすごく格好がいいんです。いい仕事をする人ほど、展覧会などに足繁く通って、絵や写真を見て日々研究しています。腕のいいプリンティングディレクターなんか、風景が網点で見えるんじゃないかな(笑)。

僕は、そういう人と接することで、写真集を造るために、その写真家やその写真家の写真を観察することと同じように、印刷や製本も観察し始めるんです。面白く観察することができれば自然と知識もつきますよ。

----本を作る時はどんなことを心がけていますか?

本造りに携わる人たちと、しっかりとした関係を持つように心掛けています。本という素晴らしいものには、多くの人が携わりますよね。もちろん、写真集の場合は、写真家の写真がなければ造れません。しかし、本造りには欠かせない、紙、印刷、製本という工程があります。写真原稿は印刷所に預けられ、紙に刷られ、その刷られた印刷物を製本し、本は完成します。その工程に携わるすべての人たちが、僕の中ではフラットな存在なんです。

----分け隔てなく接するということですね。

最後に手に取ってくれる読者の方までを含めてフラットな存在として考えたいぐらいですね(笑)。

----印象的なエピソードはありますか?

印刷現場には、どの印刷物を刷るにしても仕事に変化のない若いスタッフもいます。そんな若いスタッフに、「いろいろ大変だけど、よろしく頼むな。何だったら、俺がブランケットを洗おうか?」って声をかけるだけで印刷物が断然よくなります。上からものを言う前に、現場の雰囲気をよくすれば、大抵の印刷物はよくなりますね。

……オフセット印刷で使用される中間転写体の名称。オフセット印刷では、版にのせたインクを、一旦ブランケットのゴム版に転移させてから紙に移して印刷する。

----ディレクションの醍醐味のようなものを感じますね。

印刷現場に限らず、その仕事に携わる人たちの意識を揃えていくことが、ディレクターの仕事だと思います。

“写真家中間管理職”たちの遊び場をつくりたかった

---町口さんの具体的な仕事を紹介していただけますか?

映画や演劇のグラフィックデザイン、書籍の装丁などの仕事もありますが、写真集の仕事を紹介したほうがいいですよね(笑)。1995年、僕と同世代にあたる写真家40人の写真を集めた写真集『40+1 PHOTOGRAPHERS PIN-UP』を自主製作したのが、僕の写真集造りの始まりです。その10年後にあたる2005年には、「M label」という写真集レーベルを立ち上げると同時に、書籍販売ウェブサイト「book shop m」もオープンさせました。

なぜ、写真集レーベルを立ち上げたかというと、“写真家中間管理職”のための遊び場をつくりたかったんです(笑)。

---“写真家中間管理職”の遊び場ですか?

現在の写真集の出版事情はあまりよくありません。特に若手や大御所の写真集の出版に比べ、世の中でいう中間層、つまり僕と同世代の写真家たちの写真集の出版数が少ないと感じていました。そんな“写真家中間管理職”たちが軽い気持ちで遊べて、次に行くためのステップにもなる写真集を造りたかったんです。

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Gallery ギャラリー

『夏秋冬秋』
佐内正史
マッチアンドカンパニー+佐内事務所
2006年

『近藤良平』
野村佐紀子
マッチアンドカンパニー
2006年

『花母 -はは-/河瀬直美』
百々俊二、河瀬直美
Gallery OUT of PLACE
2006年

『encounter』
大森克己
マッチアンドカンパニー
2005年

『Chair Album』
佐内正史
佐内事務所
2003年

『40+1 PHOTOGRAPHERS PIN-UP』
企画・編集=町口 覚
マッチアンドカンパニー
1995年

『生きている』
佐内正史
青幻舍
1997年


『MAP』
佐内正史
佐内事務所
2002年

『凶区/Erotica』
森山大道
朝日新聞社
2007年

『悪人』
吉田修一
朝日新聞社
2007年

『DIRECTOR'S MAGAZINE 10・11月号』
発行元:クリーク・アンド・リバー社
発売元:青幻舍
2007年

Profile プロフィール

町口 覚
Satoshi Machiguchi
アートディレクター/
グラフィックデザイナー


1971年東京生まれ。デザイン事務所マッチアンドカンパニー主宰。95年、同世代の写真家40人の作品を収録した写真集『40+1 PHOTOGRAPHERS PIN-UP』を製作発表し、一躍脚光を浴びる。以来、日本の写真界をリードする写真家たちの写真集を数多く手掛ける。また、映画や演劇のグラフィックデザイン、書籍の装丁なども数多く手掛ける。常に表現者たちと徹底的に向き合い、独自の姿勢でものづくりに取り組んでいる。05年、自身のデザイン事務所から写真集レーベル「M」を立ち上げ、発行・発売元となり、書籍販売Webサイト「book shop m」を運営。07年、大河ドラマ『風林火山』の公共ポスターデザインを担当。現在、家具ブランド『arti』、王子製紙が運営する『OJI PAPER LIBRARY』のトータル・アートディレクションを手掛けている。

URL match and company

http://www.matchandcompany.com/

URL book shop m

http://bookshop-m.com/

Item アイテム

●台割帳
町口さんオリジナルの台割帳。マッチアンドカンパニーのスタッフは全員使用している。本を造る際のページ割りなどを書き込め、あらゆる面付けパターンにも対応した完璧なものだ。開発に開発を重ね、計算し尽くしてシンプルに仕上げた3代目のデザインで、8年間愛用し続けている。本を造る上では欠かせないもので、使いこなすとその便利さがわかる逸品。

Back number バックナンバー

冨沢ノボル
Noboru Tomizawa
ヘアメイクアップアーティスト

1967年生まれ。1989年東京マックス美容専門学校卒業後、河野ミツル氏に師事。1992年にフリーランスのヘアメイクとして活動を始める。1995年ヘアメイク活動のため渡米(NY)。1998年帰国。2004年にはネイルとピアスのブランド「RHYTHM」を自らプロデュース。 アート作品のようなヘアメイクをファッション誌や広告、PV、コレクションなどで数多く発表する富沢氏。ネイルやピアスのプロデュース、DJとその活動はどんどん発展し続けている。時代の先端を行く“美”をどうつくっているのか、フォトグラファーには何を求めているのだろうか。

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