その男にとって写真を撮ることは、欲望の対象である女への愛をゼラチンシルバーの中に塗り込める作業

操上和美 Photographer

初映画監督作品「ゼラチンシルバーLOVE」3月7日より銀座テアトルシネマ 東京都写真美術館他全国公開青山ブックセンター本店にて写真展開催(2/17〜3/3)

人が本能を優先させた場合どうなるか

ー映画「ゼラチンシルバーLOVE」を
監督することになったいきさつを教えてください。

チャンスがあれば映画を撮りたいという気持ちは、顕著でないにせよ潜在意識としてはありました。これまでも写真を撮りながら、CMも撮っていたしね。CMでは企画、演出をやり、自分でムービーを回していたので、映画を撮りたいという気になったのは自然なこと。

ーストーリーの構想はどのように?

70年代の初め、砂漠に行った時、この映画の核になっているオニマクリスプラナという虫を見たんです。この黒い虫は、灼熱の日中は砂の中で日差しを避け、夜になると砂上に出て来て生殖活動などをした後、逆立ちをして夜明けを待つ。やがて身体に降りる夜露の水分を舐めて生きる、という本能を持っている。
それを知って、逆立ちをして恍惚となっている時に太陽が昇り、その光で焼かれて一瞬のうちに蒸発してしまう、というヒントが浮かんだんです。その中に壮絶なロマンを感じ、生き物はすべての性(さが)に従って生きているということに注目しました。

もし、人間が本能を優先させた場合にどうなるかを、男と女の関係で描いたら面白いのでは、との発想が咄嗟に浮かんだんですよ。それですぐにショートストーリーがポンポンポンと出来てしまった。でもまあそれは、その時だけの話で。いつか映画として撮れるかもしれないと自分の中にしまっておいたことなんです。

ーそのストーリーがそのまま今回の映画に?

骨格になっていますね。30年以上前にポンと掴んだヒントを、そのまま心と頭の片隅に置いておいて、引き出しみたいにポコっと出してきたんです。ものを考える時はみんな、アイデアのソースを自分の中に潜在させておくものじゃないかな。

ーそのアイデアが出てきたんですね。

自分の側に、それを受けてやろうとするだけの動機があったってことだよね。絶対的動機ではない、いわゆるチャンスというものがあって、「あ、これは今かな」って。何で今なのかは明確にはわかりにくいんだけど、動けたんだ。

映画という「時間を持った映像」で
観察してみたかった

ー映画の中で、永瀬正敏さん演じる男は、宮沢りえさん演じる女の姿を、ビデオで撮影していますよね。
でもその後、モニターで女の映像を再生して、それをカメラで撮る。そのシーンがとても印象的でした。

男はビデオで撮影しながら女を観察しているうち、彼女に惹かれていく。彼はビデオで撮ったものを、もう一度TVモニターに再生する。映っているのは過去の時間で、実際には彼女はそこにいないし、温度もない。
TVモニターの中で生きる女を写真で撮ることは、過去の時間を現在形に戻し、欲望の対象である女への愛を*ゼラチンシルバーの中に塗り込める作業なんです。それを続けたら、果たして愛を勝ち取ることができるのか、映画という時間を持った映像で撮影して観察してみたかった。

*銀塩/ゼラチンシルバー
銀塩とは、フィルムで撮影して現像するときに塗りこめる感光物質。それが塗られたフィルムを露光させる方式で撮影したものを銀塩写真という。感光物質の結合剤として機能するのがゼラチンである。

ーあの作業が愛なんですね。

ストレートなラブだったら告白したり触れたりというコミュニケーションがある。でも彼は、自分だけの秘儀として撮影・現像をやっている。愛のひとつの形なんだけど、愛とはいえ、偏愛ですよね。 一般的な恋愛の場合、成就させようとして相手とコミュニケーションを取るものでしょう。たとえそれが片思いでも。一方、物に対する愛というのもある。コレクションしたり、好きなものに触れて充足感を得るとか。そこには欲望の対象とのリレーションがあるわけです。でもそれを突き詰め過ぎると、他人には理解されない。

映画の中の男は、そんな他人には理解されない愛を成就させるべく、砂漠の虫オニマクリスプラナと同じように、本能の性に従っていく。最終的にどうなるか、わかっていながら至福を手にするために突き進む。だから彼は幸福なんです。

ー彼は砂漠に生きる虫と同じく、本能で動いたと。

彼の姿はオニマクリスプラナに重なるんです。この映画は言ってみれば、男が求めた究極の幸福論。ちょっと理解しにくいかもしれないんだけどね。

撮るためならどんなことも厭わない

ー操上さん自身にも、写真は「愛する対象を銀塩に
閉じ込めるもの」という思いがありますか?

写真ってそういうものだからね。撮るためなら自分はどんなことも厭わない。撮るために使う労力も知能もすべて、時間とのバーターで取引するわけですよ。
シャッターは切れても撮れているとは限らないでしょう。写真を撮ることは、「撮れた」という自己満足のための運動のようなもので、それが写真家の本能だと思うんですよね。 じゃあ、撮れたらもうそれでいいのかと言えば、そうでもない。次々に欲望の対象が出てきます。写真家にとっての欲望の対象というのは、愛の対象なわけですよ。恋愛感情という意味じゃなくてね。風景だろうが、人物だろうが、いとおしいとか好きとかいう引力関係がなかったら、ちゃんと撮れないはずなんです。

写真は、対象の輝きのようなものに惹かれて初めて撮っていくもの。映画ではその極論を描いていますが、愛の対象を撮るという総体的な意味には変わりありません。

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Profile プロフィール

操上和美
kurigami kazumi
Photographer

1936年北海道生まれ。
1961年に東京綜合写真専門学校卒業。1965年よりフリー。広告写真の第一人者として、第一線で活躍を続ける。主な受賞歴に、毎日デザイン賞、ADC会員最高賞、講談社出版文化賞、NY ADC賞など。写真集に『中村七之助』『中村勘太郎』『SHINNOSUKE(市川新之助)』『NORTHERN』『kazumi Kurigami Photographs CRUSH』『Hara Museum of Contemporary Art』『陽と骨』など。現在、ピラミッドフィルム名誉会長、及びキャメル代表。

URL http://www.kurigami.net/

Item アイテム

「ゼラチンシルバーLOVE」
原案・撮影監督・監督:操上和美
主題歌:井上陽水「LOVE LILA」
出演:永瀬正敏 宮沢りえ 天海祐希 役所広司 他
配給:ファントムフィルム
©2008 オニマクリスプラナ製作委員会

http://www.silver-love.com/index.html

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