撮ること自体に立ち止まることはない。撮ること以外に解決方法はない。

第6回 野村佐紀子 Photographer

私、カメラを持っていないと何にもないのといっしょなんです。

「男性ヌード撮ってこいよ」
きっかけは先輩からのひとこと

---大学の写真学科を卒業されていますが、
以前から写真に興味はあったのですか?

もともと映像には興味がありましたが、写真に対しては特に関心があったというわけではありませんでした。進学するときに、どうしようかなと考えて、写真学科を選んだというのが正直なところです。

---「何か表現したい」という思いは、
ご自身の中にあったのですか?

そういう感覚はありました。ただ、私の育ったところでは、芸術に対する感度もそれほど高くなかった。それに、当時は鉄道写真を撮りたいという人がたくさん大学の写真学科にいる、そんな時代です。今のような写真の現状ではありませんでしたから、具体的に写真で何か、とは考えていませんでしたね。

ー野村さんというと、モノクロの男性ヌードという印象が
強いですが、ヌード写真を撮り始めたのはいつ頃ですか?

大学時代に「お前、男性ヌード撮ってこいよ」と先輩から言われたのがきっかけです。写真学科は、240人中4人と女子が少なかったこともあって、おそらく、からかわれたのかもしれないのですが……。当時の私は、写真の知識もないし、撮りたいテーマもない状態。だから、いい悪いもなく、ヌードがどうというわけではなく、「はい」とすんなり受け入れたんです。見たこと聞いたことを、スポンジのように何でもきゅっと吸収するような感じでしたね(笑)。

---大学を卒業後、上京して1年間スタジオで修業を
されていますが、どのような経緯だったのでしょうか?

写真学科でしたから、卒業後は当然「写真を撮る仕事」に就くつもりでいました。でも、大学には印刷会社や編集者といった「写真に関係ある仕事」の求人ばかり。将来どうしようかと悩んでいた際に、喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、たまたま隣の席に座った人が、東京のスタジオに勤めている人で。話をしているうちに「じゃあ、うちくれば?」という感じで就職先が決まりました。

「写真家だったら荒木経惟」
先のことなど考えていなかった

---1年間スタジオで修業を積んだ後に、
荒木経惟さんに師事されていますが、
どうして荒木さんにと思われたのですか?
ご自身の感性と近いものを感じていたのでしょうか?

いいえ、「感性に近い」なんてそんな生意気な話じゃないんです。当時は、スタジオで修業した後、誰か先生につくのが普通の流れ。だから「私も」と考えたんです。スタジオを出たばかりの私は、まだ何者でもなくて、この先、誰か師匠について写真をやるだろうくらいのことしか分からなかった。一生、写真を撮って行こうと決めているわけでもなかったですからね。

ではなぜかと言われると、それらの作品には、一番揺さぶられるものがあったから。喜び、哀しみ、痛み、居心地のよさ、悪さといったさまざまなものが、身体の隅々、一番先端まで行き渡るような感覚を受けたんです。自分に近いとか素晴しいというものではなく、そういう感覚はそこでしか見ることができないだろうと思って。

写真を撮るということや好きということよりも、どうやってそれで生活をするかを優先して考えていたならば、自分の方向性に近いカメラマンにつく方がいいと思ったかもしれません。でも、私は「写真家だったら荒木経惟」ということ以外、先のことなどは考えてはなかったですね。他にはないだろうと漠然と思ったんです。

---荒木さんに師事しようと決意された時、
荒木さんの個展にご自身のブックを持って行かれた
というのは本当ですか?

個展にブックを持って行きました。今考えたら、人の展覧会で自分の写真を広げているわけだから、失礼なやつだと思います。だから「違う時に」と言われて、あらためて別の機会に行きました。その後は「今から出てこられる?」みたいな単発の連絡が何度かあって、最後は「じゃ、明日から来て。ちょうどきりがいい写真の日だ」と言われて。ですから、6月1日以来、それからもう18年にもなりますね。

---荒木さんに師事して、やはり、
いろんなことを吸収されたんでしょうね。

具体的に言葉にするのは難しいです。吸収したことが何かって分かるのは、もっともっと先だと思うし、もしくはこれからも分からないかもしれないし。

---今の野村さんの撮られる写真の中にも?

もちろん出ていると思いますよ。食べ物や飲み物から、生活すること全てにおいて、影響されていると思いますから、いろんなところに出ているでしょうね。

---その頃は、荒木さんのお仕事の手伝いとご自身の
作品を撮ることは、どのように両立していたんですか?

それは、「ご飯を食べることと、寝ることを、どのように両立していたんですか?」と質問されるのと同じような感じでしょうか。師匠のところで昼間仕事があれば、自分のことは夜やればいいだけのこと。つまり、寝なければいい、だけですからね。両立するために何か特別なことをするというのは、発想がちょっと違うかもしれません。両方とも、日常生活の中における当然のことなんです。

---ご自身の作品は、撮り続けてある程度作品が
たまった段階で個展を開かれるのですか?

写真家なので、撮るものは全て発表するという前提で撮っています。発表しないものは撮らない。最初に展覧会を開いた時に「写真展をやるなら、毎年やる覚悟を決めてやっていこう」って思っていました。写真家と言うからには、続けていかないと意味がないと。ですから、作品がたまったから出すというより、ためて出すという感覚です。毎年やるのは結構大変ですけど、今は、それが当たり前のようになっているかもしれません。

撮る前に考えるのは、ちょっと格好悪い

---被写体の方はどのように見つけて、
お願いしているのですか?

特にルールはなくて、会って素敵だなと思えばお願いしています。ずっとヌードを撮っているので、周りの人たちが「いい子いるわよ」と紹介してくれることも多いですね。

---どういう方に魅力を感じるのでしょう。

モデルになってくれる全ての人が、気が合う子とか、素敵だなと思う要素を全部クリアしているというわけではないんです。会った時「あれっ?」となぜか後ろ髪を惹かれてしまうこともありますし。その時の自分の体調や出会ったシチュエーションによってもピンとくる感覚は違う。そういう意味では、ちょっとしたことに左右されるくらいの出会いかもしれませんね。

でも見方によっては、どんな出会いも幾千万分の一というくらい、意味深い出会い。18歳の時から、こういう偶然の出会いに任せるようなやり方で、よく切れずに撮り続けてこられた。自分でも不思議です(笑)。

---では、「自分らしさがでない」とか「写真の仕上がりが
思っているものと違う」ということで、ご自身の写真が
撮れなくなってしまったことはないのでしょうか?

もちろん撮ったものに関して立ち止まったり、考えたりすることは何度もあります。でも、撮ること自体に立ち止まることはないですね。それは、撮ること以外に解決方法はないと割と初期の段階で気づいたからかな。

---それはなぜですか?

30歳になるちょっと前、なんとなく体調がよくない時期があって。どうしてだろうと思っていたんですが、撮影をした途端ものすごく元気になったんです。その時、しばらく撮影をしていなかったということに気がついて。それ以来、「調子が悪ければ、撮ればいい!」って思うようになりました(笑)。それに、撮る前にいろんなことを考えるのは、ちょっと格好悪いかなとも思っていて。写真家と思ってる以上、とにかく撮り続けていかないとね。

---作品を見て、「次はこうして撮ってみようか?」と、
写真と向き合う作業はなされていらっしゃいますか?

自分の作品とはもちろん向き合います。でもそれは、自分の写真を見返して、ここは良かった悪かったと判断して次に生かすこととは違いますね。これを撮ってきたんだと認める気持ちと、足りなかったものも含め、自分のものだという愛おしさも含めて向き合う。もっと分かりやすく言うと、足りないものもいっぱいあるんだけど自分の撮ってきたものを、何度立ち返っても愛おしく思っていく気持ちの積み重ね……みたいなことだと思う。

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Profile プロフィール

野村佐紀子
Sakiko Nomura
Photographer

1967年山口県生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。91年より荒木経惟に師事。主に男性の裸体を中心とした湿度のある独特な作品世界を探究し続ける。93年より東京中心にヨーロッパ、アジアなどでも精力的に個展グループ展をおこなう。主な写真集に「裸ノ時間」(平凡社)「愛ノ時間」(BPM)「闇の音」(山口県立美術館)「黒猫」(t.i.g)「tsukuyomi」(m&c)「近藤良平」(m&c)などがある。昨秋、写真集「夜間飛行」(リトルモア)、「黒闇」(Akiko Nagasawa Publishing)を出版。

Item アイテム

左上は、キャノンのG10。ストラップはニコン製!下は、ミノルタのTC−1(現在は生産終了)。「富士山頂」という文字のシールが。モデルさんからのいただきものだそう。小さなカメラのストラップは成山画廊の成山氏からのプレゼント。以上2つは、日常持ち歩く「普段使い」のカメラ。右は、10年前から愛用、『夜間飛行』でも使用したフジカラーMC−007(現在は生産終了)。通称スパイカメラ。

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