写真は、自分の意志や想像を超えたもっと先の方にこそ、何かがある。

第6回 野村佐紀子 Photographer

「どれを見ても野村の写真と
分かってしまうのは最悪だ」と人に言われて

---ご自身のオリジナリティや作風といったものは、徐々に創られていくものなんですか? 被写体の選び方、どのカメラ(機材)で撮るか、撮るタイミングなど、全てがオリジナリティに通じると思いますが……。

確かに行動も含めて、全てが作品のオリジナリティに繋がるとは思います。でも、私自身については今、答えを見つけている最中です。実は少し前に「どれを見ても野村の写真と分かってしまうのは最悪だ」と人に言われて、それも一理あると思ったんです。被写体に魅力があるから撮っているはずが、でき上がった写真を見ると、撮影した私の作風が目についてしまう。これをよしとするかどうかは、今はまだ分かりません。写真家なら、個性やオリジナリティは必要だとも思いますし、“私が撮った”と分かるような作品の方がいいという見方もありますからね。

私の場合、今までがむしゃらにやってきたから、そういうちょっと立ち止まるようなことを言ってもらえるのは、とても重要だと思っています。そのことを考えながら撮り続けていけば、いずれ何か気づけるかもしれない。

---逆に誰かの影響を受けることで、
自分の作風ではないという感覚になることはないですか?

写真の場合、たとえ他の誰かと同じ手法で同じモノを撮っても、「今、このカメラで私が撮った」という絶対的な安心感があります。私が撮っているんだから、それだけで私の作品だと言える。でも一方で、私が撮った=私の作品と、安心しきってしまうのは、すごく危険な考えだとも思います。写真というのは、被写体があって成立するもの。全てはカメラの向こう側にあるわけですよね。だから、影響を受けた、受けないの話をすると、写真は最初から何らかの影響を受けて成立しているものですから。

人にはそれぞれ素敵な瞬間はある
写真はその“どこ”を切り取るかの問題

---撮るときに一番大事にしていることは何ですか?

ピントや露出というカメラの機械的な意味でいえば、やっぱり押すタイミングだと思います。

---野村さんの押すタイミングというのは、ご自身が思う時?それともモデルさんのタイミングですか?

人物を撮る場合は、私がいて相手がいることなので、お互いが通じ合った瞬間だと思う。相手に確認してるわけじゃないからモデルさんは違うかもしれないけど(笑)。私は、基本的に「笑顔がいい」とか「リラックスしてるとこがいい」という固定観念がないんです。みな、それぞれの時を過ごす中のどこかに素敵な瞬間はあって、写真はその“どこ”を切り取るかの問題。私ができることは、モデルさんの“それ”を見逃さないようにすること。ちゃんと感じられればいいということですね。

---では、撮影前に写真の構図やモデルさんとの
コミュニケーションの方法など、
あれこれ考えることはないんですか?

全くないですね。会ってみないと分からないって基本的には思っていますから。撮影場所や時間は仕方なく決めますが、なるべくどんな状況にも対応できるようにしています。

自分の想像なんて大したことないから、
「これは絶対カラー」なんて
決めつけたりはしない

---昨秋、『黒闇』と『夜間飛行』2冊を同時期に刊行され
ました。従来の写真集同様モノクロの『黒闇』に対して、
『夜間飛行』は初のカラー写真集です。モノクロと
カラーで、どのような違いがあるとお感じですか?

モノクロの方が”写る”と思う時もあるし、色が邪魔だと感じる時期もありました。長い間撮っているといろんな波があります。その中で、「これはモノクロ」、「この感じでグッとくるのはカラーだ」という自分なりの感覚が出てきますね。でも、自分の想像なんて大したことないから、「これは絶対にカラ―」と決めつけたりはしないかな。カラーで撮ろうと思った時、間違ってモノクロで撮ってしまってもいいと思っているくらいのことなんです。写真は、自分の意志や想像を超えたもっと先の方にこそ、何かがあると思っているから。

---『夜間飛行』は、小型8mm、通称スパイカメラで
撮影をされているそうですが、それを使うことで
撮影のスタイルは変わりましたか?

スパイカメラはカメラ屋さんに行った時、たまたま見つけて買っただけなんです。ただでさえカメラは重いでしょ?だからなるべく小ちゃくて軽い方がいいと以前から思っていたので。自分の撮りたいイメージが先にあって、このカメラを使い始めたわけではないんです。

---たまたま見つけたカメラで撮影されても、作品には
ちゃんと野村さんのテイストが出ているような気がします。

すごく小っちゃいカメラでしょ?鞄にぶら下げてもいいくらい。だから、撮る時にモデルさんからも「え、こんなオモチャみたいなカメラで本当にちゃんと撮れるの?」って言われちゃいますね。だから、モデルさんもなんだか肩の力がふっと軽くなるみたいですね。でも、リラックスさせるために使っているわけではないんです。どんなカメラを使っても基本的には私自身の撮影スタイルは、特に変わらないですね。 

---写真のプリントはご自身でされているんですか?

時と場合によりますけど、今回の2冊はそれぞれのプリンターの方にお任せしました。

---お任せする場合、色などはどのように
決めているんですか?

見本を作る人もいると思いますが、私の場合は「もうちょっとロマンチックに仕上げてくれる?」などと大まかな感じでお願いします。だから、プリンターさんからは、嫌がられているかもしれません(笑)。私としては彼らにも期待しているところがあるんです。プリンターさんは、その道のプロフェッショナルですから。お願いしたのとは違うけど、とても良い!ってものが出てきたり、その人の個性によって仕上がったプリントが違ったら面白いでしょ?共通認識を持つのは難しいかもしれないけど、お互いに気づかされることもすごく多いと思います。

写真集はでき上がって時間が経ってみないと、
本当にそれで良かったかどうかは分からない

---『夜間飛行』の写真のセレクトやページ構成については、野村さんも関わったのですか?

アートディレクターの町口覚さんと2年くらいかけて作りました。彼も私も写真集を作る時、たぶん同じ感覚のところもあって。たとえば写真を10枚組んでいって、5枚目の写真があんまりよくなければ、その写真だけを差し替えるんじゃなくて、最初から全部組み直す、みたいなことですね。ですからページ構成については永遠にやりました(笑)。

---全部で何点ぐらいの中から選ばれたんですか?

写真を積み上げるとするとだいたい50cmくらいかな。大変でしたよ。最初は町口さんの事務所で机や床に並べて選んでいたんですが間に合わなくて。ある時期から日本青年館の24畳の和室を借りて写真全部並べて(笑)、セレクトしました。正解がないことは分かっていたけど、1日寝ると前日セレクトした写真がもう全然違うなぁと思えて、とにかくずっとそんなことを繰り返していました。でも、写真のセレクトにしろ、並びにしろ、自分の写真を考えることの訓練にはなったと思います。

---最終的にこれでいこうと決めた時のポイントは?

途中でリトルモアの社長の孫さんに加わってもらいました。その時「3人の平均点でというような決め方はしない」という共通認識はみんなの中にはあったと思います。ですから、最終的には3人が「いいかもね。いきますか?」と思えた時だったかな。ただ、写真集というのは、でき上がって時間が経ってみないと、本当にそれで良かったかどうかは分からないと思うんです。なので、今は、孫さんにしても、町口さんにしても「いいよね、これ」ってお互いに探り合っている感じです(笑)。

---今回、写真集を制作して、新境地が見えたり、
新たな気づきがあったりしましたか?

新たにというより、保留にしていたことをちゃんと考えるという意味では、気づきがあったと思う。実は表紙の写真を完成直前に差し替えたんです。最初は男性のヌードでした。それで収まりはよかったし、今まで作ってきた写真集の流れや私の作品のスタイルからしても一番落ち着いた。でも、あまりに収まりがよくて、「本当にこれでいいの?」と逆にすごく不安になってしまって。 でも、こんな時でも孫さんにしても町口さんにしても、「さきちゃん、そう思うの?じゃあ、表紙変えよう」って言ってくれた。このお二人の存在は大きかったですね。さらに写真集が巣立っていく時に関わってくださっている出版社の広報や営業の方たちが、写真集を愛してくれたり、いろんな人がいろんなことを教えてくれました。すごく幸せなことだと思います。

---最後に、写真のどんなところが
好きなのかお伺いします。
撮る行為ですか?それとも写真そのものですか?

その全部ですね。日によって違ってくるんですけど。そういえばこの間、青山ブックセンターで自分の写真の展示をしていた時、展示してある自分の作品を、撮ってみたんです。その時、写真を撮るのって結構楽しいなと思いました(笑)。自分で撮った写真を撮るなんて、どう考えたって面白くないでしょ? でも面白いなって思ったんですよ。

私、カメラを持っていないと何にもないのと一緒なんです。この間、カメラを持たずに公園に行ったことがあって。そうすると、子供が歩いて来ても、「今日はカメラ持ってないから、来なくていいの」って気持ちになったりして。持っていても撮らないくせにね(笑)。その時も思いました、「あ、撮るの結構好きだな」って。

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Profile プロフィール

野村佐紀子
Sakiko Nomura
Photographer

1967年山口県生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。91年より荒木経惟に師事。主に男性の裸体を中心とした湿度のある独特な作品世界を探究し続ける。93年より東京中心にヨーロッパ、アジアなどでも精力的に個展グループ展をおこなう。主な写真集に「裸ノ時間」(平凡社)「愛ノ時間」(BPM)「闇の音」(山口県立美術館)「黒猫」(t.i.g)「tsukuyomi」(m&c)「近藤良平」(m&c)などがある。昨秋、写真集「夜間飛行」(リトルモア)、「黒闇」(Akiko Nagasawa Publishing)を出版。

Item アイテム

モノクロの男性ヌードに加え、風景やスナップなども収録した『黒闇』(AkioNagasawa Publishing)、スパイカメラという超小型カメラで7年の歳月をかけ撮影、風景を中心とした著者・初のカラー写真集『夜間飛行』(リトルモア)。

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