写真家には見えていない風景が、私たちに垣間見えることがあります。

山下リサ・三村漢 designer

客観的にいい写真を示してあげることは、すごく大事。それがデザイナーの仕事だと思っています。

写真集から書籍まで、数々のヒット良書の装丁やデザインを手掛けてきた山下リサと三村漢。それぞれフリーで活躍してきたデザイナーが手を組み、今春からデザイン事務所『niwa no niwa(二羽の庭)』を立ち上げた。出版不況と呼ばれる中、この場を基点に、出版界に新たな一石を投じようとしている2人に、写真集づくりの醍醐味、デザイナーとしての関わり方、今後の意気込みについてインタビューした。

「一緒にやったら、どんなものが
生まれるんだろう」と、
化学反応みたいなものを期待しました

---お二人の出会ったきっかけは?

山下リサさん(以下敬称略):8年ほど前、写真集の印刷立ち合いで凸版印刷に行った時、偶然一緒になったのが最初の出会いです。たまたま隣の印刷ブースにお父様の三村淳さんと漢が来ていました。三村淳さんは、星野道夫さんの写真集などを手掛けているAD(アートディレクター)で、私が雑誌『SWITCH』にいた頃にお会いしたことがあったんです。それで、ご挨拶に行って。その時、漢と知り合いました。

その後、私が三村さんの事務所に遊びに行くようになって、漢とも次第に仲良くなりました。その頃、彼もすでにデザイナーとして仕事をしていましたが、デザイナー同士というより、友達としての付き合いが始まりでしたね。

三村漢さん(以下敬称略):当時はデザインの話なんて全くしませんでした。仲間と一緒に、飲みに行ったり、海や山へ出かけたり、味噌やお酒の醸造所を見学したりと(笑)、完全に遊び友達でしたね。

山下:漢が仲間を集めて、みんなでわいわいやっている中に、私も巻き込まれた感じです。「何か一緒に、ものづくりをしたいね」という話はしていましたが、ビジネスという感じでは全然なかったです。

三村:僕は父と一緒に仕事をしていたんですが、徐々に自分にも依頼がくるようになって。それで、リサさんに仕事の相談をしたり、一緒にアイデアを出し合うことも多くなってきました。

山下:昨年の夏頃ですね。突然、漢から連絡があって会うことに。そうしたら突然「一緒にデザイン事務所を立ち上げない?」って言われて。いつになく神妙な様子でした。それまでも何人かの人と組んでやろうという話が持ち上がったこともあったんですが、なかなかその気にはなれなくて。でもその時は、その場で「やろう!」と即答しちゃったんです。

三村:嬉しかったですね。

山下:ずっと友達として付き合ってきて、人間的に信頼し合っていることが、大前提にありました。一番大事なことですよね。さらに、私と漢の、ものをつくるベクトルや個性に、全く違う部分がある。だから「一緒にやったら、どんなものが生まれるんだろう」と、化学反応みたいなものを期待しました。たぶん、先に漢がそれを感じ取っていたんだと思います。彼はプロデューサー気質なんです。

三村:「一緒にやろう」と決めてからは、ゆっくり準備を進めて、今は『niwa no niwa』のwebサイトの拡充に向けて動いているところです。

---『niwa no niwa』という名前の由来は?

三村:1つは、もともと「庭」という字が好きだったこと。もう1つは、テレビ番組で聞いた早口言葉からでした。テレビを見ていた子供が「庭には二羽、ニワトリがいる」という早口言葉が始まると、「にわにわにわにわ…」と、お経のように唱え始めたんです。それを聞いているうちに、「あ、この響き、奇麗だな」と思って。それで、リサさんに「『niwa no niwa』」ってどうかな?」と提案してみたら、「それ、いい!」って言ってくれて。

山下:ノリです(笑)。庭には、ものを作り出す場、何かを生み出す場という意味合いがあると思うんです。鳥が飛んできたり、花が咲いたり・・・…庭という言葉から、いろいろな想像が膨らむ。

三村:実際、この名前について人と話すと“庭”という言葉に対して、それぞれの人がそれぞれの意見を発してくれるんです。庭っていろんな意味を持つ広いものだ、一人ひとりがつくり出していくものなんだな、と改めて思いましたね。

山下:ですから2人の庭がスタートですが、様々な分野に携わっている方に参加してもらって、楽しい庭をつくっていきたいです。

三村:デザインって基本的に受注仕事なんですが、発信していくことも必要だと思っています。そのバランスが大事だと。2人だけじゃなく、写真家や編集者などいろんな人たちと熱気のある空間にしていきたいですね。

---デザイナーになられた経緯を教えてください。

山下:私は美大を卒業後、デザイナーの個人事務所に入って、3年近く仕事をしました。そこのデザイナーさんが『SWITCH』のADをされていたので、私も一緒に担当していました。

ところがある時、その方がADを辞めることになって。一緒につくり続けてきた雑誌だったので残念だなと思っていたら、当時の編集長から「うちに入っちゃわない?」と言われて、「え? それどういうこと?」と(笑)。彼の申し出は嬉しかったけど、同時にすごく悩みました。育てていただいたデザイナーさんの事務所を辞めて移ることに抵抗もあったし、なにより私に務まるのかという不安があった。けれども正直に、事務所のボスにお話ししたら、「リサの人生なんだから、自分がやりたいと思ったら、やっていいんじゃないかな」と。なかなか言えないことですよね。それで、編集長に「やります」と返事をしていました。その5分前まで、どうしようかと迷っていたので、自分でも「あ、私、やるんだ」ってびっくりしました(笑)。

それから、『SWITCH』でADとして2年半。そこでの経験は大きかったです。写真家ともたくさん出会えましたし、撮影の現場にも行かせていただきました。その後、2001年に独立して、フリーで活動してきました。

三村:僕の場合は、父が自宅で仕事をしていたので、写真家や編集者が日頃から家に出入りしていたんです。その人たちに育てられたという感じですね。星野道夫さんにもかわいがっていただきました。小さい頃から素晴らしい写真家の作品を、間近で見ていたというのは貴重な財産です。それを生かさない手はない(笑)。

古民家に興味があったので、建築家になろうと思った時期もありましたが、自然に父のもとで仕事をするようになりました。独立したのは昨年です。今となっては父の背中を追いかけてよかったと思っています。

写真集は、
写真家とデザイナーのコラボレーション。
写真家と愛し合わないとできないです

--書籍から写真集まで幅広くお仕事をされています。
つくり方に違いはありますか?

三村:書籍は、書店に平積みされた1週間、ないし2週間が勝負なので、その間に、著者のファン以外の人にどう手にとってもらうかを、第一に考えます。そういう意味では少し広告に近いところがありますね。

山下:“表の顔”をつくってあげるという意識が強いですね。パッケージに近い感覚です。その本の持つ世界観を、表紙の1枚に込める。だから、そこへ傾けるパワーはすごく強いです。それに対し、写真集は時間軸を組み立てるので、映画をつくる感覚に近いかもしれません。

三村:写真集を開いてから閉じるまでに、一本の映画を見たような世界に取り込まないといけない。実際のつくり方も、その2つでは違います。書籍は編集者と著者と3人でつくっていくので、デザイナーは黒子に徹することが多いですね。逆に写真集は、編集者が一歩下がって、写真家とデザイナーが一対一でつくっていく。

山下:写真集の場合、大きな容れ物は編集者が用意して下さって、その中で写真家とデザイナーが、一つの世界を共同で創りあげる。

三村:写真集は、写真家とデザイナーのコラボレーション。写真家と愛し合わないとできないです(笑)。

---実際、写真家の方から、どのように依頼がくるんですか?

山下:大抵、撮りためてきた写真を持参されて、ご自身のつくりたい写真集のイメージを話してくださいます。私たちは、まず世界観を全部見せてもらい、それを咀嚼した上で、汲みとったものを一度寝かせて、自分の中に染み込むのを待つ。それから今度は、自分の中から新しい風景を織り出していく。織り出したものを写真家に見せて意見をもらって、私も意見を言って……その繰り返し。写真家と一緒にこねていくような作業です。もちろん戦いもあります(笑)。

---写真はセレクトして持ってこられますか?

三村:そういう方もいれば、全部投げてくる方もいます。ケースバイケースですね。

山下:たとえば、荒木経惟さんの場合は写真集によって、両極に分かれます。使いたい写真の順番から、表紙に使う写真まで決まっている場合と、完全にお任せの場合。『小説ソウル』という写真集の時は、20年間撮りためていた韓国・ソウルの写真3万枚を手渡され、「好きなようにしてくれ」って。全部の写真を見るだけで、3日くらいかかりました。

隣り合う写真の“結婚”、つまり相性は大事です

---山下さんが手掛けた、梅佳代さんのデビュー作『うめめ』の場合は、どうだったんですか?

山下:最初にリトルモアの編集の方から、電話がありました。その後、梅佳代ちゃんと編集者が事務所に来られたんです。写真を見せていただいたら、ものすごく面白い。「ぜひやらせてください!」って。

---梅佳代さんからは、何か要望はありましたか?

山下:彼女にとってファースト写真集だということもあったと思いますが、写真のセレクトから何から完全に任せてくださいました。つくったものに関して意見はもらいましたが、私が感じた世界観を、そのままデザインに反映していけたので、やりやすかったです。

時には、写真家と世界観が噛み合わなかったり、意見の食い違いなどが出ることもあるんですが、そうしたことは一度もなかったですね。

---写真は、どのように組んでいったのですか?

山下:彼女の写真は、反射神経で撮っている“切り取り型”。ですから、最初に面白いと思う組み合わせをつくって、それから全体の流れをどっとつくりました。

隣り合う左右のページの写真の“結婚”、つまり相性は大事ですね。2枚の写真を組み合わせることで、1枚の時とは全然違う風景が生まれます。さらに、“結婚”したカップルを並べていって、ひとつの流れやストーリーをつくっていく。『うめめ』ではそういうやり方をしました。

不思議なことに、この写真集では、写真と写真の結婚を第一に考えたら、流れもほぼ一発で決まってしまった。その後あまり写真の入れ替えもなかった、稀有な例です。たぶん彼女の写真の力が、その流れをつくってくれたんだと思います。

---組み合わせを決めていくときは、PCの画面上で
するのですか? それとも、打ち出して?

山下:出力したりコピーしたものを、床の上にだーっと並べて、「これと、これ」というように、組み合わせをつくっていきます。その間を、のしのし歩いて(笑)。一晩寝かせると全部入れ替えたくなっちゃうこともあります。
PCに写真を全てとり込んで、画面上で組む方もいると思いますが、私はできないんです。写真集は、手にとってめくって見るものですしね。

三村:効率悪く聞こえるけど、最終的にはその方が早い。

山下:この方法だと答えがストンとやってくるんです。たぶん頭を空っぽにできるからだと思います。画面上だと構築したり、計算したりする方に頭を持っていかれてしまう。流れや世界観をくみ取ったりする時は、かえって頭が邪魔になることがあるんです。

三村:ですから、写真集の場合、PCを使うのは最後の最後だけですね。

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Gallery ギャラリー

うめめ
梅 佳代
Littlemore

not six
長島有里枝
SWITCH PUBLISHING

いま
大橋 仁
青幻舎

小説ソウル
荒木経惟
SWITCH PUBLISHING

色淫
荒木経惟
Aat Room

植田正治 小さい伝記
植田正治
阪急コミュニケーションズ

TRAVELOGUE 2000-2009 石川直樹写真展 ポスター
ミュゼふくおか カメラ館

PenBOOKS 魔法の動物園
岩合光昭
阪急コミュニケーションズ

白馬
菊池哲男
山と溪谷社

Women of Vietnam
★Guinness World's Largest Photo Album★
外山ひとみ
CANON

Profile プロフィール

山下リサ
Lisa Yamashita


1970年横浜市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 雑誌『SWITCH』のアートディレクターを経て、2001年独立。荒木経惟『緊縛礼賛』『色情花』『花人生』他、梅佳代『うめめ』、大橋仁『いま』、長島有里枝『not six』などの写真集を手掛ける。エディトリアルにとどまらず、アート・立体デザインなど様々な方面に活動を展開中。


三村漢
Kan Mimura


1978年横浜市生まれ。三村淳デザイン事務所を経て、2008年に独立。五木寛之『百寺巡礼』『21世紀仏教への旅』、植田正治『小さな伝記』、星野道夫『星のような物語DVD』、渡辺淳一『渡辺淳一の世界供戮覆鼻アナログ・手作業を基盤に「記憶に残るデザイン」を提唱。写真家/イラストレーターとのコラボレーション企画中。

niwa no niwa
山下リサと三村漢のデザインユニット

http://www.niwanoniwa.com/

Item アイテム

TiPPA タイプライター
山下さんが、版画家である父から譲り受けたもの。
niwa no niwaのwebサイトで使用されている他、2人の仕事で活躍する場面も少なくない。三村さんが手掛けた、石川直樹写真展のフライヤーにも登場!

Back number バックナンバー

山中 有
Yu yamanaka
designer

1976年山梨生まれ。web制作会社イメージソースを経て2004年に独立。2003年写真家澁谷征司氏のサイトを手がけ、そのシンプルでクールなデザインが注目を集める。その他の代表作にNO.2 INC. WEB SITE(06年)、BMW in Art(07年)などがある。
常に対象と一定の距離を保ち、俯瞰するデザイナーの山中氏は、人目をひく派手な仕掛けや装飾を用いないシンプルでスタイリッシュなデザインで「素材」の良さを最大限引き出す。

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