写真を最大限にリスペクトした上で、新しい流れや、新しい風景をつくっていく。

山下リサ・三村漢 designer

写真家の気持ちをリセットしたり、
違う視点で提案を

---写真家が「こうしてほしい」という強い気持ちを
持っているケースもありますよね?

山下:そういう方が多いですね。写真家は、撮った時のシチュエーションに思い入れがあって、1枚の写真だけに焦点がいってしまうことがある。「どれだけ大変だったか」とか、「すごく素敵な出会いだった」という気持ちが、写真を選ぶ際に入り混じってしまうんですね。だから、客観的に見て「絶対にこっちの写真の方がいいよ」と、説得することもあります。

三村:写真家は、自分の撮った写真に対して最大の愛情があるので、いったんリセットしてあげるんです。その上で、客観的にいい写真を示してあげることは、すごく大事。それがデザイナーの仕事だと思っています。それでも、譲れないという場合は、写真家に譲りますけどね。

山下:基本的に、写真は写真家のものだと思っています。ただ、この写真がいいという提案をしたり、写真と写真を組み合わせることで新しい流れをつくったりするのは、デザイナーの役割ですね。

---大変な作業ですね。

三村・山下:そこが楽しいんですよ!

三村:たとえば、すごく尊敬している写真家がいて、その方が気づいていないことを、自分が提供できることがあるわけですから。すごく、やりがいがあります。

山下:写真家には見えていない風景が、私たちには垣間見えることがあります。写真家と一緒に写真を選別すると、その方が、いいものをはねちゃう時があるんです。そういう時は、「ちょっと待って。この写真とこの写真を組み合わせるといいですよ」と言って、見せてみる。すると「ああ! ほんとだ」って。はねられてしまった中から、いい写真を拾っていくことも、私たちデザイナーの役目です。

---写真集をつくる際、写真家とは、
話し合いを重ねていきますか?

三村:僕の場合、写真集に使うと決まっている以外の写真も、持ってきていただいたりします。ポジなら前後5枚くらい見せてもらうと、その方が何を撮りたかったのか、だいたい分かるんです。その上で、どの写真を使うか話し合って決める。

山下:大橋仁さんの『いま』という写真集をつくった時は、タイトルも大橋さんと編集者と私の3人で考えました。大橋さんにいくつか候補を挙げていただいて、「やっぱり、タイトルは『いま』じゃない?」って。「“いま”誕生していく、“いま”という現実が、すごく大事じゃない?」という話を、たくさんしました。その写真集の持つ意味合いまで議論できると、やはり深いものができます。

---今後、装丁をしてみたい写真家や、
惹かれる写真はありますか?

山下:広告写真やつくり込んだ写真よりは、はっきり写っていない写真(笑)。作家の心の内側を映し出しているような写真に惹かれますね。
たとえば、大橋仁さんの『いま』の表紙写真。あれは実は、大橋さんのセルフポートレートなんですけど、一見何が写っているのかよく分からない。「これ一体、何の生物?」という感じですよね。でも、分からないからこそ惹かれる。表紙に使いたいと提案したのは私でしたが、全員一致でした。そうした心象風景を表しているような写真に、興奮しちゃいますね。

---心象風景の写真の場合、
相手の心に乗れない時もありますよね?

山下:写真とどこでコネクトするかは、人それぞれ。気の合う写真もあれば、気の合わない写真もある。人間との相性と同じようなものだと思います。

三村:僕は最近だと小山泰介さんに注目しています。彼の写真を見るとドキドキする。お会いしたことはないんですが、あの方しか持っていない感性があるんですよね。すごい写真家になるだろうなと思っています。いつか装丁をやってみたいですね。

それから、プロの写真家ではないですが、岡本太郎さんやイサムノグチさんの撮る写真も好きです。たとえば、岡本太郎さんが、1950〜60年代の沖縄を撮影された『岡本太郎の沖縄』という写真集。撮るという行為を意識し過ぎず、対象を真摯に撮影することに終始しているためか、当時の沖縄の様子や、そこに住む人々の生活がリアルに伝わってくるんです。そういう写真に惹かれますね。

山下:荒木経惟さんは「写真がすごいんじゃない。目の前にある世界がすごいんだ。写真は、ただそれを写し撮っているだけなんだ」とおっしゃっていました。
写し撮れるか撮れないかで、写真家とそうでない人が分かれるんだと思いますが、写真の本質をついているような深い言葉ですよね。

一度自分の中で壊して、
次のステップにいかないと。
たぶんデザインの仕事はその繰り返し

--印象深い仕事はありますか?

三村:植田正治さんの『小さい伝記』ですね。一通り自分でデザインできるようになってから、父と一緒にやらせてもらったものです。実は、それまで植田さんの写真は、大好きというほどではなかったんです。でも、写真をたくさん見ているうちに、だんだん自分が写真に取り込まれていって、不思議な高揚感がありました。アドレナリンばくばく出ちゃって(笑)。

それまでは、写真を「これ、いい。これ、あんまり」などと第一印象重視で見てきたのですが、この写真集を手掛けてから、写真の“裏側”まで見るようになった。だから、あの1冊はすごく印象深いです。

---「写真の裏側まで見るようになった」というのは、植田さんの撮ったシチュエーションや、撮った時の気持ちにまで思いを巡らせるようになったということですか?

三村:もちろん、分かるはずはないんですよ。でも、写真を見ていると、どんどん想像力が湧いて、ストーリーが見えてくる。それによって気分が揚がる。きっと写真集を買う人にとっても、気持ちが高まるということはベストだと思うんです。
だから、写真の裏側まで汲み取って、見た人も高揚できる本をいかにつくるか、すごく考えましたね。自分の気持ちが揚がると、写真集もいいものになると思います。

山下:印象深いという意味では、何度も出てきていますがやはり、荒木経惟さんの言葉が心に残っています。「つくったものを、壊せ。分かりきったものを、つくるな」「完成されていないものに、魅力がある」。

完成されたものを持っていくと、「面白くない」と言われちゃうんですよ。そして、「とにかく自分の好きなようにやれ」と。ご自分の写真が「どう料理されても大丈夫だ」という自信の上に成り立つ言葉だとは思いますが、本質的なことをおっしゃっている大事な言葉だと思います。

三村:僕の父や周りの方も、言葉は違うものの、「毒を盛れ」ということを言いますね。ちょっとでいいから毒を入れておくと、時間が経つにつれ、それが発酵して、クセになる味が出てくるって。

たぶん、すぐに頭に浮かんだアイデアを、そのまま形にしてはダメということです。簡単にできてしまったものは、たとえそれでOKが出たとしても、自分の成長には何も繋がらないですよね。だから、つくったものを一度自分の中で壊して、次のステップにいかないと。そうすることで、綺麗ではないかもしれないけど、魅力的なものができると思うんです。たぶんデザインの仕事はその繰り返し。実際、いったん壊す作業を通してつくったものは、印象深い。ずっと大切に本棚に飾るものになります。

山下:壊す作業はすごく大事。でも、それは写真を壊すことではないんです。写真を最大限にリスペクトした上で、新しい流れや、新しい風景をつくっていく。そういう意味で、壊しながら次の段階にいきたいと思います。

ものをつくる時の空気を大切にしたい

---2人で仕事をすることで、
新たな気づきや発見はありましたか?

三村:実はこの間、『niwa no niwa』として初めて書籍の装丁の仕事をいただきました。それをつくっている時、とんでもなく楽しかったんです。

山下:仕事が来たら、どちらがADをするかを最初に決めて、一方がイニシアチブをとり、一方がサポートに回ろうと話し合っていました。だけど、それを決める前に依頼があったので、試しに今回は2人でやってみることにしたんです。お互い表紙をつくってきて、2つの要素をドッキングさせたら、すごく面白いものが出来ちゃったんですよ。あ、やっぱり間違えてなかった。だから2人で仕事をするようになったんだって思えてすごく嬉しかったですね。

---今後、どのようなことを発信していきたいですか?

山下:なるべく手触り感や、手を動かすことを大事にしていきたいと思っています。全てを機械に頼らず、たとえば手書きの文字など、手を動かしてつくったものをグラフィックに反映させて、五感に響くデザインを目指したいです。

三村:手づくり感のある webの制作にも力を入れていきたいですね。それから、まだ世間には知られていないけど、魅力ある写真家さんを見出して、コラボレーションしていきたいと思っています。

山下:可能性がある若手の方ともやりたいですね。遊びの面では、写真家や絵描きさんとTシャツづくりとか(笑)。

三村:遊びと仕事のバランスは大事にしたいです。あえて誰にも見せない絵を描いたり、人が試していないやり方で農作物をつくったり……。

山下:もともと友達として、遊びながらものづくりをしていたので、その延長でやりたいですね。遊びながらつくっている時の空気、すごく大事だと思うんです。ものをつくる時の空気って、ビジネスに寄れば寄るほど消えてしまうから。『niwa no niwa』は、もちろんビジネスですが、いっぱい遊んでいきたいです。

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Gallery ギャラリー

うめめ
梅 佳代
Littlemore

not six
長島有里枝
SWITCH PUBLISHING

いま
大橋 仁
青幻舎

小説ソウル
荒木経惟
SWITCH PUBLISHING

色淫
荒木経惟
Aat Room

植田正治 小さい伝記
植田正治
阪急コミュニケーションズ

TRAVELOGUE 2000-2009 石川直樹写真展 ポスター
ミュゼふくおか カメラ館

PenBOOKS 魔法の動物園
岩合光昭
阪急コミュニケーションズ

白馬
菊池哲男
山と溪谷社

Women of Vietnam
★Guinness World's Largest Photo Album★
外山ひとみ
CANON

Profile プロフィール

山下リサ
Lisa Yamashita


1970年横浜市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 雑誌『SWITCH』のアートディレクターを経て、2001年独立。荒木経惟『緊縛礼賛』『色情花』『花人生』他、梅佳代『うめめ』、大橋仁『いま』、長島有里枝『not six』などの写真集を手掛ける。エディトリアルにとどまらず、アート・立体デザインなど様々な方面に活動を展開中。


三村漢
Kan Mimura


1978年横浜市生まれ。三村淳デザイン事務所を経て、2008年に独立。五木寛之『百寺巡礼』『21世紀仏教への旅』、植田正治『小さな伝記』、星野道夫『星のような物語DVD』、渡辺淳一『渡辺淳一の世界供戮覆鼻アナログ・手作業を基盤に「記憶に残るデザイン」を提唱。写真家/イラストレーターとのコラボレーション企画中。

niwa no niwa
山下リサと三村漢のデザインユニット

http://www.niwanoniwa.com/

Item アイテム

SKS ペンタイプルーペ 50X
三村さんの仕事グッズ。印刷物の網点を見るためのもので、デザイナーには欠かせないアイテム。プリンティングディレクターも使用する高倍率のものを愛用。ネットで購入。

Back number バックナンバー

山中 有
Yu yamanaka
designer

1976年山梨生まれ。web制作会社イメージソースを経て2004年に独立。2003年写真家澁谷征司氏のサイトを手がけ、そのシンプルでクールなデザインが注目を集める。その他の代表作にNO.2 INC. WEB SITE(06年)、BMW in Art(07年)などがある。
常に対象と一定の距離を保ち、俯瞰するデザイナーの山中氏は、人目をひく派手な仕掛けや装飾を用いないシンプルでスタイリッシュなデザインで「素材」の良さを最大限引き出す。

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