写真のギャランティーで生活していくには、自分のセールスポイントを知り、プロモーションをしていくことが不可欠。

柳谷杞一郎 Photographer & 「写真の学校 東京写真学園」/松濤スタジオ/雷鳥社 代表

オーソドックスなものを撮っている新人は、世に出にくいという現実

ー新人の写真家さんは、違うのでしょうか。

09年10月下旬に発売した『カワセミ』も『妻を撮ること』も、どちらも30代の若手写真家の処女作。この年代の人が普通に写真を撮ると、当然、縦位置と横位置の写真が混在しますし、割合的には横位置が多いくらい。でも、書店に置きやすい判型にしたいからといって、横位置のいい写真は削れない。だから、横位置の写真を残して写真集を作ろうとすると、どうしても正方形に近いカタチになってしまうんです。アマチュアの方の写真集はすごく正方形が多いですよね。

ー正方形にするためには、手間隙がかかるような気がします。

印刷的な面からいえば、ものすごく効率が悪いです。この2冊は、どちらもB5判。大判の部類に入ります。でも、正方形にするために縦を切っているから、印刷代がかかっている割にはあまり大きな本には見えないんですよね。

ーでも、その印刷代諸々の費用を回収できる見込みがあるからこそ、出版をなさるわけですよね。

もちろんです。ただ、うちから出ている写真集は、ほとんど価格がオールカラーで1000円台なんです。世間には2000円以上の写真集が主流かもしれないけど、そうした価格のものは千数百部売れたら良し、という考えで作られているんじゃないでしょうか。僕は作った写真集をたくさんの人に見てもらいたいから、少なくとも3000部は売りたいと考えているんです。だから、値段を安くする。3ヶ月とか半年といった短いサイクルで売って資金を回収するつもりもないんです。2年、3年をかけて売り切れれば、それでいいんです。

ちなみに、『カワセミ』も『妻を撮ること』も増刷が決定しました。半年も経たないうちに結果を出したわけですから、出版物としては成功したと思います。

ー写真家とは、どのような経緯で出会うのでしょうか。

僕は『High photo Japan』の発行人でもあるので、たとえば、『カワセミ』の福田啓人くんの作品は「第1回ハイフォトアワード」の審査員として見ました。彼はグランプリの受賞者です。

多くの写真賞では、カメラマン、写真家、写真評論家などが審査員となっています。結果、斬新なもの、エキセントリックなものが評価を受ける傾向があるように思います。価値があっても、オーソドックスなものが賞をとるというのはかなり難しい。だから、ハイフォトアワードでは、「売れる写真とは何か」をキーワードに、編集者が審査員を務める写真賞にしたんです。

したがって、受賞作品は、出版物として売れることが条件だった。もちろん確実に売れるなんてことは、誰にもわかりはしないですよ。正直、『カワセミ』『妻を撮ること』両作品が版を重ねて、今はホッとしています。審査員である僕たちに、それなりにモノを見る目があったということが証明できたわけですからね。

出版して、自分の存在が世に知られればその先に仕事の可能性が

ー福田さんは、「売れる」という条件に見合う写真家だったということでしょうか。

そうです。彼はカワセミを7年間撮り続けていて、数多くの質の高い写真を持っていました。僕はその点を評価してあげたかったし、カワセミの写真を1000円台の求め安い価格で商品化すれば、ロングセラーになると確信も持ちました。

もちろん、写真集の印税だけでは彼が7年間撮り続けてきた労力に見合う金額にはならないでしょう。でも、出版して彼の存在が世の中に知られれば、その先に仕事が広がっていく可能性は大いにあります。僕は、彼がプロのカメラマンとして生き残れるよう、応援をしたいと思ったんです。

ー「ハイフォトアワード」の他にも、たとえば持ち込みでいい写真家に出会われることもあるのでしょうか。

持ち込みをしたいという人は多いです。連絡を受けたら、まずは作品を送ってもらい、作品を見て「素敵だなぁ」「いい写真だなぁ」と思ったら、こちらから連絡をして会う、というパターンが多いです。

ーやはり、自分から何らかのアプローチをする姿勢が大切なのでしょうか。

自分を知った上でアクションを起こすことが必要です。作品が世に評価され、写真を撮るギャランティーで生活していくには、自分のセールスポイントを知り、プロモーションをすることが不可欠ですね。

写真の学校で、受講生と売り込み用の写真集を作る。5刷になった本も

ー出版社の他に、「写真の学校/東京写真学園」も運営されています。ここで、生徒さんと写真集を作っているのも、プロモーションの一環なのでしょうか。

授業の課題であるとともに、仕事でもあります。作った写真集は書店に並ぶし、生徒であっても参加者には印税が出ます。授業の課題として写真を撮るよりも、仕事として撮ったほうがずっと真剣味も増すし、楽しいですよね。

過去出版した『東京築地』『東京町工場』『東京外国人』『フォトサプリ』などは新聞や雑誌で取り上げられて話題にもなりました。これはプロモーションに主眼をおいた写真集なので、この本をきっかけに仕事を得ることが一番の目的なんです。実際、掲載した作品がキッカケで仕事をもらった人もたくさんいます。やっぱり売れた本のほうがプロモーション効果が大きいんです。例えば『フォトサプリ』は、5刷までいってますから、仕事の依頼が何件もありました。それに参加者は5回印税もらったわけですから、嬉しかったと思いますよ。

ー実践さながらではなく、実践なわけですね。

売り物ですから、出来によっては何度でも撮り直しをしてもらいます。でも中には、撮影相手に2度目、3度目の撮影依頼をするのに気後れしてしまう人が少なくないんです。なんとかがんばってついてきて欲しいですね。

普通の仕事の現場だったら、1度依頼してダメな写真を撮ってきたらそれでおしまいですよね。でも学校だから、やり直しOKなんです。しかも編集者からの具体的ダメだしつき(笑)。これほど勉強になることはないじゃないですか。

ー具体的には、どんなテーマで写真集を作っているのでしょうか。

今年のテーマは「フォリナーズ テーブル」。在日外国人の食卓です。日本に何年か暮らしている外国人のご自宅にお邪魔して、思い入れのあるお国自慢の料理を本人とともに写真に収めてレシピも載せる、という内容です。

ー被写体となる外国人は、生徒さんが自力で探すんですよね?

そうです。でも、「人に声が掛けられない」、「取材なんてできない」っていう受講生がびっくりするくらいいる。まずは、いい写真を撮る前にそこをクリアしないと。

ー制作期間はどのくらいなのでしょうか。

夏休み前にテーマを決め、9月の中旬くらいに1回目の写真提出があります。ここでダメ出しをされた人のために10月に2回目の提出日があり、それでもダメな人のために3回目の提出日を11月に設けています。その後、12月には写真につける文章やプロフィールの原稿締め切りがあり、1月に文字・デザイン校正、2月に色校、3月に発売というスケジュールです。

1年がかりで作るので、あまりタイムリーなテーマを選べないんです。本当は、耐震偽装問題の写真集とか事業仕分けの写真集とか作りたかったんですけどね(笑)。

好きということと、財布からお金を出して買う行為との間にある大きな溝

ーちなみに、授業で制作している写真集を含め、売れる写真集と売れない写真集の差はどこにあるとお考えですか?

先ほど、写真に文章がついた方が魅力が増すという話をしたのですが、僕はやっぱり写真だけで何かを物語れる人がプロだと思っています。「この人にカメラを通して表現させたとしたら、どんな世界を見せてくれるんだろう」とワクワクできる人。 ただ、残念ながら、写真だけの本を売るということに関して、僕は自信がありません。だから作りません。

ーそれは、どうしてなのでしょうか。

ちょっと極端な例になるのですが、「第1回ハイフォトアワード」で準グランプリを受賞した『妻を撮ること』は、「写真の学校」の生徒たちに超人気だったんです。審査会場に来て「あの写真、大好きです!」ってキャーキャー言ってる生徒さんがたくさんいたんですよね。でも、学校でその写真集を売り出しても、ほとんど誰も買わなかったんですよ。それくらい、好きということと財布からお金を出して買うという行為の間には、大きな溝があるんです。

ーそれでも、なぜ、人生の大半を写真に費やしていらっしゃるのでしょう。

写真に対するモチベーションを保っていられるのは、著作権があるという面が大きいですね。

学生の頃から編集という仕事にどっぷりつかって、そしてこれが天職だと思っていました。幸いなことに高いギャランティもいただけるようになった。でも、編集者は「こんな写真を撮りたい」と具体的なヴィジュアルのアイデアを出し、自らロケハンに行き撮影場所を決め、スタイリストやヘア&メイクとも打ち合わせをし、被写体になる俳優やミュージシャンの出演交渉まで、すべて一人で取り組んだとしても、できあがった写真に対する著作権はありません。

ついでに言えば、雑誌や広告の場合だと撮影にかかった費用は出版社や制作会社が負担してますよね。でも、通常写真の著作権は編集者でも出版社でもなくカメラマンのものになる。同じモノづくりを一生の仕事にするなら、最終的に作ったものが自分のものになるカメラマンのほうがいいと思っちゃったんですよね。

結局、最後は真剣に辛抱強く
がんばった人が勝つ

今、過去に撮影した写真の使用料が毎月ある程度まとまった金額で僕の口座に振り込まれます。経理スタッフがよく「ほっといてもお金が入ってきていいですね」なんてことを言います。でもほっといて入ってくるわけじゃないんですよね。世の中が必要とする写真を提供しているから、それを必要とする人がその対価を支払ってくれてるんです。うらやましいと思うんなら、自分も世の中が必要とする写真を撮ればいいんです。

でも、実際に行動に移す人はそれほど多くはないですよね。僕はプロの写真家で生きていこうと真剣に考えている人はそれほど多くないと思っています。だからカメラマンは、なりたいと思えばなれる職業です。問題は真剣に、本当に真剣に写真に取り組んでいけるかどうかだけなんです。ほとんどの人はそれほど真剣じゃないんじゃないかな。だから結局は最後は真剣に辛抱強くがんばった人が勝つんです。

写真なんて、シャッターを押せば誰だって撮れるんです。うちの6歳の息子だって、今デジタルカメラを渡したら、かなりレベルの高い写真を撮りますよ。純粋で変な欲がないから写真そのものは魅力的ですよね。でも、残念ながら息子の写真にギャランティを払ってくれる人はいません。写真を撮ることでお金をもらうのなら、それだけの何かがなければなりません。最も手軽な表現手段だからこそ、創意工夫が求められる。それが、写真の面白さであり、大きな魅力であると思っています。

以上

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Profile プロフィール
柳谷杞一郎
Kiichiro Yanagitani

1957年広島生まれ。
修道学園中・高等部、
慶応義塾大学文学部卒業。

出版・広告物の制作ディレクターを経て、’88年に『エスクァイア日本版』の月刊化に際し、編集者として参加。’90年より副編集長。’91年にカメラマンに転身。その後、松濤スタジオ、写真の学校/東京写真学園、雷鳥社の運営者として写真と深く関わる。

写真の学校/東京写真学園 URL http://www.photoschool.jp

松濤スタジオ URL http://www.shoto.co.jp

雷鳥社 URL http://www.raichosha.co.jp

Kiichiro Yanagitani URL http://www.yanagitani.cc/index.php

Item アイテム

『foreigner's table』
(1,575円 著:Beretta P-10 雷鳥社)

「写真の学校/東京写真学園」受講生の写真集。中国、アメリカ、フランスからラオス、アフガニスタン、イスラエルまで…日本在住の外国人がつくる様々なオリジナル料理を写真とレシピで堪能できる1冊。

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