写真を撮るためには、何よりもまず個性がないとダメなんじゃないかと思った。 text/sasa ryoko  photo/shiozaki toru PHOTOGRAPHER GATEWAY TO SUCCESS

第11回 うつゆみこ Photographer

 「言葉がなくても大丈夫な写真」これが自分の強味だと、海外に行って感じました。

08年11月の『Paris Photo』の展示は、雑誌『ART ACTUAL』や『le Figaro』紙など、フランスのメディアで大きく取り上げられ、「日本から初めてユーモアのある写真が登場した」と評された。ひとつの世界を自ら工作し撮影する、それがうつゆみこのスタイル。加えて特徴的なのは、四方30センチにも満たない小さな作品の中に、必ずといっていいほど生モノが入っていること。たこ、イカ、魚のウロコ、カブトムシの幼虫などが、多少の毒を含んだ色鮮やかでポップな創作物の一員となっている。ぼんやりした子どもだったという。人形遊びや編み物に没頭することで満たされていた心は、大学で刺激的な仲間に出会うことで何かに目覚める。そして、写真の学校では、個性を持つことを思い知らされる。日々直面する様々なできごとが、少しずつ、写真作家への道に進むための栄養分になっていたように思える。

遅れてきた思春期!?
大学に入って覚醒したもの

ー人形や皿の上に虫が乗っている作品がありますね。それを見ると、小さい頃に虫を触ってゾクゾクした記憶と、かわいいものを広げておままごとをした時の記憶が混ざり合います。やはり小さな頃は虫遊びやままごと遊びをしていたんですか?

東京の荒川区で育ったので、あまり虫で遊んだ記憶がないんです。ただ、父が生きもの好きで、魚釣りの帰りにヘビやサワガニを拾ってきては1週間ぐらい家で飼ったりしていました。その頃私は、木の実を摘んできては指でつぶし、摘んできては指でつぶしっていう遊びに没入していたらしいです(笑)。それからシルバニアファミリーという動物のお人形さんごっこも好きでした。

ーよく背景に布が使われていますが、小さい頃から縁があったとか。

母の趣味が洋裁で、カーテンを縫ったり私の洋服を作ったりしていました。昔の写真を見ると、手作りの洋服にスモッキングという細かい刺繍がしてあったり、チロリアンテープが使ってあったりと、手がこんでいるんですよ。私も布やビーズ、千代紙が大好きで、将来の夢は手芸屋さんでした。

ー小さい頃は個性的な子でしたか?

そうでもなかったと思います。中高と女子校で男子を意識する機会もなく、とりたてて自我の目覚めや葛藤らしきものもなく、ぼんやりとした子だったと思います。

ー個性というものに目覚めたのは大学に入ってから?

そうですね。遅れてきた思春期だったのかな。大学入学を機に変な方向にひねくれて出ちゃったんだと思います。美術系のサークルに入ったんですが、DJ、バンドをやっている人、建築家志望などいろんな人がいて、彼らに刺激を受けました。それまでにいろいろ経験してきた人ならそれほどでもないんでしょうけど、私の場合、それまで刺激のない生活だったので、びっくりして覚醒しちゃったのかもしれないです。

ーその頃好きだった作家や影響を受けたアーティストは?

チェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエル。彼の作品には、刷毛のふさふさとか、釘の先のトゲトゲとか、粘土のねちょねちょとか、いろんな質感のものが出てきて、触覚が刺激されます。『悦楽共犯者』という作品の中には鯉に足の指を吸われてよがる女の人が出てきて、もう見ているだけでゾクゾクきちゃう感じで(笑)。

椎名林檎さんにも影響を受けていると思います。当時入っていたサークルの友人を通して、東京に出てきたばかりの彼女と友達になりました。林檎さんの顔に包帯を巻いて街で写真を撮ったり、彼女の家でお互いに写真を撮りっこしたり、彼女が伴奏して私が歌ったり。

ーずいぶん贅沢な遊びをしていましたね。

’98年の彼女のデビュー曲『幸福論』のPVでは私が赤いコートを着て一瞬だけ映っています。ちょっと自慢です(笑)。その時、少しだけ体験させてもらった撮影現場が、自由な雰囲気で「いいなあ」と思ったのを覚えています。そんなことも、この仕事に入ったきっかけになっているかもしれません。

自分の個性について認識する必要があると思い知らされた

ーその後大学を中退されていますが、やはり写真を本格的に目指そうとしたからですか?

いえ単に勉強ができなかったから(笑)。入学後の専攻は、美術や心理学が希望だったんですが、成績が悪くて中国文学専修に進むことになってしまいました。授業では教授に当てられるのがとにかく怖くて……。それで、辞めてしまいました(笑)。

もともとは美術系の大学に行きたかったんです。でも、デッサンがダメだったので、もっと簡単に行けるのは何かなと考えていたんですよね。ちょうど高2の頃にHIROMIXブームがあって、私もいろいろ写真を撮っているうちに、あ、写真だと(笑)。日芸の写真学科にも受かったんですが、記念で受けた早稲田大学に合格してしまい、うっかり行くことにしちゃったんです。結局そこを中退して写真の学校に行ったんですから、今考えてみれば大学には寄り道をしに行ったようなものですね。

ただ、写真に関してだけ言えばそうなんですが、大学でたくさんの面白い人に会えたのはかなりの収穫だと思っています。早稲田ゆえと思います。サークル仲間は、映画監督、ミュージシャン、建築家、写真家、モデル、TVのディレクターなどになっていて、在学中はもちろん今に至るまでずっと刺激を受け続けていますね。中退した後も早稲田出身の人に会うことが多く、それでより親しくなれたり……。写真の大学だけに行っていたら、もう少し世界が狭かったかも知れない、と思うことはよくあります。

ー中退することについて、将来に漠然とした不安はありませんでしたか?

それがぼんやりしていて、フリーターにでもなろうかなぐらいで。

ーじゃあ、プロの写真家になろうという強い意志は?

あ、ぜんぜんなかったですね。今でもないです(笑)。面白そうだからやってみようかな、という感じで。

ーその頃から今のようなモチーフを撮っていた?

いろいろなものを撮っていて、その中には今のようなものもあったという感じで。一時期は花のクローズアップに凝っていました。誰もが一度は通る道というか(笑)。クローズアップすると全然違う世界が見えて面白かったんです。あとは、上野公園で鳩のいる風景をひたすらモノクロで撮ってみたり、虫がいれば虫も撮ってみたり。セルフポートレイトや友達も撮ってみたりしていました。

ー写真の学校に入って何が一番ためになりましたか?

自分の個性について認識する必要があるとわかったことです。技術はたぶん勉強すれば身につくし、営業もがんばれば行けると思うけど、写真を撮るためには何よりもまず個性がないとダメなんじゃないかと思って。

ーそれは講師に教えてもらって?

いえ、他の人が撮るのを見ていてそう感じました。コンペ用の作品撮りで一緒に同じものを撮ったりする機会があったんですが、人より撮るのが遅いし、普通に撮ってもおしゃれに撮れるわけじゃない。これじゃダメだと思って、モデルさんに無茶をやらせて、変なポーズを取らせたりもして。

誰かと同じものを撮ってかっこよく撮れるタイプの人間じゃないなっていうのはそんな時に少し気づいて、そのあとスタジオマンになってから、自分の撮るものと先輩が撮ったものを見比べて確信したんです。

ー迷ったり悩んだりする時期があったんですね。

学校で勉強をしていた時代や、スタジオ時代、特にコンペで落ち続けている時などは、だいぶそういうことについて考えたりしました。

ーそれで今のスタイルを極めようと?

目の前にあるものをそのまま撮るより、自分で世界を作りあげてそこで個性を出したほうがいいなと。他のことをやろうと思っても自分にできることとできないことがあるというのがわかったんです。

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Gallery
『OUT of ART / はこぶねのそと』
Profile プロフィール
うつゆみこ
Utsu Yumiko

1978年東京都出身。
2001年早稲田大学第一文学部中退。
2002年東京写真学園/写真の学校修了。

2006年に第26回「ひとつぼ展」でグランプリを受賞。一気に活躍の場を広げ、magical, ARTROOMやひとつぼ展のグランプリ展で実力を発揮、高い評価を得る。個展・グループ展多数。

2008年には韓国・Daegu Photo Biennale、中国での平遥フォトフェスティバルに引き続き、11月のParis Photoでの展示は、雑誌『ART ACTUAL』や『le Figaro』紙など、フランスのメディアで大きく取り上げられた。12月にはブダペスト・LumenGalleryで個展を開催。

2009年1月末、G/Pgalleryで個展を開催。同年11月、Paris Photo出展。12月25日には初の本格的作品集『OUT of ART / はこぶねのそと』を発売(アートビートパブリッシャーズ)。写真集刊行にあわせて2010年1月に個展「はこぶねのそと2」(G/P gallery)を開催。5月にソウルフォト2010、マレーシアのナショナルアートギャラリーで開催される『Tokyo Visualist』に出品。

URLhttp://utuyumiko.cocolog-nifty.com/blog

Item アイテム

泳ぎ疲れて鯛の上に「上陸」したり、シャコのウロコを身にまとったりと、しばしば作品に登場するフィギュア。身長は、1〜2センチ。

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