面白くないかもしれないと思っても、それを撮らないと先に進めないということもあるんです。 text/sasa ryoko  photo/shiozaki toru PHOTOGRAPHER GATEWAY TO SUCCESS

第11回 うつゆみこ Photographer

ある日、これが自分の写真だと思える1枚が
撮れた

ー今も個性について悩みますか?

最近は、そのことで悩むよりも、やるべきことをやったほうがいいなと思っています。ただ、自分に何ができるか、今でも試行錯誤はしています。

たとえば、私は虫や木の実や貝など小さいものを撮っているので、せいぜい実物はA4ほどで収まる程度なんです。でも、もっとサイズの大きな写真を撮ったほうがいいよと周囲からアドバイスされた時には、やっぱりいろいろ考えました。いつもよりたくさんの物を入れ込んで撮影したりして。でも、そうすると意識が散漫になってしまってどうも落ち着かない。日の丸構図でもいいからシンプルなほうがいいと思いました。

面白くない写真は、撮っている時にぼんやりとはわかっているんです。でも、撮った直後は「これはダメだ」とはじくほどは自覚できない。それが2,3ヶ月後に再び見直すと、はっきりダメと気づくんです。最初から撮らないこともできるんでしょうけど、それを越えないと先に進めない。撮ってみなければそれがわからない、ということがあります。

ー自分の個性はこれだ、と確信したのはいつごろですか?

うーん、それは人に認めてもらって、少し自信がついてからかな。それまではなかなか確信するまでには……。これでいいのかなと思えたのは、ひとつぼ展に入賞した頃だから、2005年あたりですね。それから、名前を漢字からひらがな表記に変えた時にも、自分はこれでいこうと思っていたような気がします。

ーそれはいつ? 改名には何か意図があったんですか?

2006年、当時六本木にあったmagical,ARTROOMでの展示がきっかけだと思います。初めてのコマーシャルギャラリーだったので、ちゃんと人に覚えてもらおうと思って。あと、名字は漢字で書くと「宇津(うつ)」なんですけど、写真集を作ってくれたクリエイティブ・ディレクターの後藤繁雄さんが、知り合ってから1年以上たつのに、ずっと「うづ、うづ」って呼んでいて。それが嫌だったのもあります(笑)。

ーこれが自分の写真だと確信した1枚はありますか?

白子をケーキに見立てた作品などは、自分らしく撮れたかなと思いました。写真集にも入っています。これ、実は松濤スタジオでスタジオマンをしていた時、仕事の合間に白子を持ち込んで事務所の片隅で撮ったんです(笑)。

ーどこが自分らしいと?

やっぱり、触感、質感あたりが生々しく撮れているなと。

ー白子がなぜかかわいらしく見えます。

私は白子が食べられないんです。これが何かと考えちゃったらウッてきちゃう(笑)。何の抵抗もなく好きだったら、写真に撮っていないんだろうと思います。いつもゾワゾワしながら撮っているので、そういう要素がないと。

いろんなカメラマンのやり方を間近で見て、
ありのままでいいんだと

ースタジオアシスタント時代に勉強になったことはありますか?

カメラマンといっても社交的な人だけではなくいろんな人がいたので、自分もありのままでいいんだと安心したところはあります。すごく内向的なカメラマンさんがいたんですが、カメラを持つと突然人が変わるんです。モデルさんを困惑させながらもノリノリで撮っていて。こういうのもアリなのかと(笑)。

ーライティングなども勉強になりましたか?

いろいろな現場を見る機会に恵まれたのはよかったですね。たとえば当時、ホンマタカシさんはカサトレを8灯並べて高く上げて囲むようにしていたことがあって、まるで神殿の柱のようでかっこよかったですし、北島明さんはグリッドっていうスポットっぽいライティングを使っていて、やっぱりかっこよかった。そういえば、ある著名なカメラマンが、スタジオに置いてあるライトを指さして「これってライトですか?」って聞いてきた時にはちょっとびっくりしました(笑)。基本的な機材を知らなくてもやっていけるのかと。

ーうつさんはどのようなライティングを?

基本的に生モノを相手にしているので、ライティングを凝りはじめると、その間にモノがへたってくるし、物理的にも囲んでしまうとセットを手直しする作業ができない。だから、なるべくシンプルにしています。

ースタジオ時代を経て今は作家として活躍していらっしゃいますが、ご自身の写真を多くの人に見てもらうためにどんな工夫をされていますか?

性格的に電話も苦手だし、営業ってしたことないんですよ。でも、展示は結構がんばってきたと思います。声をかけてもらったものはできるだけお引き受けしています。

グランプリ展では1000枚出品。額ひとつひとつに布貼りし、使った両面テープは2000m

ーいつもたくさんの作品を展示されますよね。一番多い時では何枚ぐらい?

ひとつぼ展グランプリ展では1000枚以上。額装したものは600枚くらいです。額装についてはお金がないので額を百円均一ショップで大量に買い込み、そのままではちょっとみすぼらしかったのでひとつひとつに布を貼って飾りました。両面テープを全部で2000m使いましたね。準備には丸々1ヶ月かかっています。
この時に限らず、いつもできるだけスペースぎっしり飾っています。昇降機やはしごを使って自分で壁の上のほうにも飾ったりして。DMもなるべく凝ったものを作って覚えてもらおうと。

ーなぜ、そんなにたくさんの作品を展示するのですか。

私の写真は、身近な素材を使って撮っているためか、みなさんそれぞれ被写体にいろいろなストーリーを重ね合わせてくれます。だから気に入ってくださる写真が見事なほどばらけるんですよね。どれが好きかと聞くと、撮った私でも意外なものを挙げる方が多くて、「え?これ?」ってびっくりしてしまうぐらいで(笑)。だから、もし出展する作品をこちらで絞ってしまうと、来てくれた人が好きな写真に出合う機会を奪ってしまうかもしれないと思ったんです。たくさん飾れば飾るほど、受け取ってもらえるものがあるんじゃないか。そういう可能性に賭けている部分がありますね。

ー来てくれた人をもっと楽しませたいという気持ちもある?

それはすごくあります。一般的に写真というのは、絵と比べてひとつの作品を見るのにかける時間が少ないと思うんです。だからせっかく家から時間をかけて見に来ても、点数が少なかったり内容が薄かったりすると、ほんの10分ぐらいで見終わって帰ることになってしまう。それって、どうなんだろうというのは、以前から思っていました。だからなるべく多く飾るように工夫しています。

それに限らず、なるべく長く楽しんでもらいたくて、展示してない作品を入れたアルバムを置いて見てもらったり、撮影に使っているものを並べて置いたりもしますね。私がギャラリーにいる日は被写体のカエルを連れて行ったり、カブトムシの幼虫を連れて行ったりして「今日は生き物に触れる日」みたいな(笑)。最初はカエルを怖がっていた人が、帰り際にはつついて遊んでいたり。そういういたずらをしています(笑)。

ーそんなに力の入った展示をするというのは体力勝負だと思います。燃え尽きたりしませんか?

します。集中するところだけはガーッと集中して、一年の残りの時間はぼやぼやしているタイプですね。たぶん一点集中はO型だからじゃないかと……(笑)。

ー写真集『OUT of ART/はこぶねのそと』が出たいきさつについてお聞きしたいのですが。
そもそも後藤繁雄さんとはどこで知り合ったのですか?

2005年のひとつぼ展の審査員に後藤さんがいました。その後、後藤さんなど5人が共同運営していたギャラリーmagical,ARTROOMの新人発掘のグループ展にお誘いいただいて展示したのがきっかけです。2006年のことです。
写真集は、作ろうとお話をいただいていたのに、先のばしになっていたんです。『Paris Photo』への出展が決まったので、そのタイミングで出そう、ということになりました。

ー知り合ってどのくらい経ってから、写真集が出たことになりますか?

私は今も後藤さんが経営しているG/Pギャラリーに所属していて、定期的に個展、グループ展、海外でのフェアなどに参加しています。写真集を出したのが2009年。だから4年くらいですね。

ー写真を組んだのは?

後藤さんです。直観を大事にする方で、ページ組みは一晩で決めたそうです。男っぽいセレクションで、後藤さんにしか組めないものがやっぱりあるというか、私には思いもよらない写真が入っていて、その作品が入ったおかげで全体が引き締まりましたね。

ーここは同意できないという部分もありましたか?

余白がもったいない、もっと載せたいのにとか。貧乏性なので(笑)。

Pages 1 | 2 | 3
Gallery
『OUT of ART / はこぶねのそと』
Profile プロフィール
うつゆみこ
Utsu Yumiko

1978年東京都出身。
2001年早稲田大学第一文学部中退。
2002年東京写真学園/写真の学校修了。

2006年に第26回「ひとつぼ展」でグランプリを受賞。一気に活躍の場を広げ、magical, ARTROOMやひとつぼ展のグランプリ展で実力を発揮、高い評価を得る。個展・グループ展多数。

2008年には韓国・Daegu Photo Biennale、中国での平遥フォトフェスティバルに引き続き、11月のParis Photoでの展示は、雑誌『ART ACTUAL』や『le Figaro』紙など、フランスのメディアで大きく取り上げられた。12月にはブダペスト・LumenGalleryで個展を開催。

2009年1月末、G/Pgalleryで個展を開催。同年11月、Paris Photo出展。12月25日には初の本格的作品集『OUT of ART / はこぶねのそと』を発売(アートビートパブリッシャーズ)。写真集刊行にあわせて2010年1月に個展「はこぶねのそと2」(G/P gallery)を開催。5月にソウルフォト2010、マレーシアのナショナルアートギャラリーで開催される『Tokyo Visualist』に出品。

URLhttp://utuyumiko.cocolog-nifty.com/blog

Item アイテム

写真左のガムのようなものは被写体のフィギュアなどを固定する際に使う粘着ラバー「ブルタック」。中央は「無反射ガラス」。背景に本のページを開いて使う場合も多く、生モノを載せると汚れてしまうため、まずこれを敷いてから被写体を載せる。絵筆は2cmほどの小さなフィギュアを塗るためのもの。

PAGE TOP
  • High photo Japanとは?
  • サイトマップ
  • プライバシーポリシー
  • 利用規約
  • 会社概要
  • ヘルプ
  • お問い合わせ
  • アンケート
Adobe Flash Player Download 最新のFlash playerをダウンロード

Copyright(c) High photo japan. All rights reserved.
掲載の写真・記事・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。