海外では、無名でもキャリアが浅くても、写真1枚で勝負できる。それは怖いことでもあるけれど。 text/sasa ryoko  photo/shiozaki toru PHOTOGRAPHER GATEWAY TO SUCCESS

第11回 うつゆみこ Photographer

フランスの雑誌に、大御所に混じって自分の作品が

ーうつさんは今まで、フランス、ハンガリー、中国、韓国、マレーシアで展示されています。フランスで開催された『Paris Photo』では、世界的な写真家エリオット・アーウィットが『OUT of ART / はこぶねのそと』を購入し、うつさんはアーウィットにサインしたとか。

失礼なことに、私、写真を拝見したことはあったのですが名前を覚えていなくてですね。有名な写真家みたいだなって(笑)。

ー2008年の『Paris Photo』に出展したきっかけを教えてください。

私のマネジメントをしてくれているG/Pギャラリーが申し込んで、審査に通ったんです。2,3ヶ月で準備して発送してという感じでした。その後も海外からの展示や雑誌掲載のお誘いはギャラリー経由できます。基本的には、作品を販売する場合はギャラリーが、販売しない場合は先方とのやりとりから諸々自分でやる場合が多いです。

展示にはアートフェアのように販売するのが目的のものと、純粋に写真を見せる展示とがあります。売る場合は、作品を美術品として送るので、『Paris Photo』の時は私の所属するギャラリー一つ分で送料が往復130万円ほどかかってしまった、ということもありましたね。

ー現地に行く費用は招待先で持ってくれるんですか?

ホテル代ぐらいは持ってくれることもありますが、交通費は原則自費ですね。でも旅行は好きなので、たいてい行くことにしています。行くとネタになりそうな本や小物などおみやげをいっぱい買ったりして、展示をしに行くといつも貧乏になって帰ってきます。

ー海外での受け止められ方は、日本と違う点がありますか?

海外では誰も私の名前を知らないですよね。だから、ただシンプルに、そこに写ったものだけで判断してもらえる。キャリアなどまったく関係なく、わずらわしい説明も抜きに、ただ楽しんでもらえるのは、すごく楽でした。もちろん写真1枚で勝負しなければならないので、怖いといえば怖いんですが。

それからフランスでは両親が子どもを連れてフェアに来ていたのが印象的でした。あまり日本にはないスタイルだと思うんですが、インテリアとして写真を買って壁に飾るのが日常なんですね。ある裕福そうな家族が、子ども部屋に飾る写真を子ども自身に選ばせていました。その子は私の写真が楽しいから、きれいだから、という理由だけで選んでくれたんだと思います。これから自分の写真がこの家族の生活に入り込むんだなあと思って嬉しかったです。

中国の平遥っていう世界遺産のある田舎町にも行きました。『平遥フォトフェスティバル』っていう町興しのようなやたら大きなフェアで。地元のおばあちゃんが見に来たり、子どもたちが学校帰りに自転車で乗りつけたりするんです。おばあちゃんたちは私の写真の前で笑ってくれ、子どもたちは私の作品の前でお買い物ごっこをして遊んでいました。「これ何元ですか?」とお買い物ごっこの材料にされて。面白くない作品だったら立ち止まりもしないだろうし、気になったから遊んでくれたんだろうと思います。言葉がなくても大丈夫な写真だっていうのが、自分の強みだなって感じましたね。

ー日本と比べて自由ですね。

日本では、作品と解説をセットで見る傾向があると思います。説明がついてやっと作品として理解できるところがあるというか。私は美術館に行くのが好きですが、説明を読んで「ふーん」とうなずくより、単に絵を見て「なんだかわかんないけれど面白いね」みたいなほうが性に合っている気がします。

それから、賞を取って有名な人に認められて、ようやく世に出られるといった面もあると思うんです。面白いものを作ってネットで人気があっても、それだけじゃダメみたいな。でも、フランスではもっと自由でした。『Paris Photo』の最中に、フランスの雑誌『ART ACTUAL』に、日本の写真家についての記事が載ったんですが、そこに掲載された5枚の写真のうち1枚が私のものだったんです。荒木経惟さんや篠山紀信さんなどそうそうたる顔ぶれが並んでいたんですが、そこになぜか私も入っていて。日本じゃ絶対にありえない並びですよね。価値観の違いに衝撃を受けました。

ー海外での体験はその後の作風にも影響していますか?

私の作品についていえば、アートフェアではシンプルでわかりやすいものほど売れたりするんです。それまでは、もっと難しくて、もっと複雑なもののほうがいいんじゃないかって思っていたところがあったんですが、シンプルでいいんだなと。私が大きくブレずに済んでいるのはこの経験があったからかもしれません。

動く虫を人に押さえてもらいながら、4×5で撮影

ー虫を被写体にして写真を撮っていらっしゃいますが、最近になってお気に入りの虫が死んでしまったとか。

1年ぐらい飼っていたヘラクレスオオカブトの幼虫で、これぐらい(指で直径8cmぐらいのCの形を作る)になっていたのに、今年の猛暑で……。この虫は熱帯産なので、もともと暑さには強いはずなんですが。

ー写真集にあるのは生前の姿。

はい。撮影中にうにうにと動いて大変でした。4×5で撮っているので物理的に押さえられませんから「ちょっと押さえてて」って人に助けてもらって撮りました。虫にも「動くな、動くな」と念じながら(笑)。以前は、虫を冷蔵庫や冷凍庫に入れて動かなくなるようにしてから撮っていて、たまに殺したりしてしまったのですが、やっぱり生きていないといきいき写らない(笑)。それと最近は虫への愛着が強くなっているのでなるべく生きたまま撮影しています。

ーこけしの周りに細いミミズのような虫が巻きつけてある写真もあります。あれはどうやって?

これはミルワームという虫で、一匹、一匹に針を通してテグスでつなげたものです。魚の餌用に茹でてあるもので、これは最初から死んでいたんですが。さすがに作業している間は、自分が悪代官にでもなったような後ろ暗い気持ちになりましたね(笑)。

ー見ているだけで指先あたりに虫を触ったとき特有の感触が甦りますね(笑)。虫は好きなんですか?

好きな虫もたくさんいますが、苦手な虫もいます。やっぱりゾワゾワしながら撮っているというか。でも、被写体にしているうちにだんだん気持ちが変化してきましたね。ハサミムシなんて気持ち悪いと思っていたんですが、よく見ていると丁寧に毛づくろいしているんですよ。きれい好きだなと思ったらなんとなく愛着がわいてしまって(笑)。

ー他にもいろいろな被写体を飼っていらっしゃる?

ヒキガエル4匹とオカヤドカリが2匹います。サワガニも20匹いたんですが、この暑さでわらわらと死に、最後に1匹だけ残りました。今後はイモリやザリガニを飼ってみたいなと。イモリのおなかの鮮やかな模様や、ザリガニの爪の赤いポツポツがきれいで。鳥も撮ってみたいんですが、その後ずっと飼わなきゃと思うとなかなか踏み切れないです。

ーほかに最近、興味のあるものは?

以前はポップなものが好きだったんですが、最近は化石などにも関心が向いて、興味の幅が広がりました。それから身近なものにも惹かれますね。よく行く近所のスーパーは規模は小さいのに、珍しい魚がいっぱい置いてあって気になるんです。よく見るとエボダイの顔って味わい深いんですよ。ミル貝もいつか撮ってみたいし。そんなことを考えながら買い物をしています(笑)。

植物も気になってますね。彼らにはいろんな戦略があって、それがいちいち理にかなっていてすごくおもしろいです。家の庭に捨てたかぼちゃの種が芽を出してすごいいきおいで茎を伸ばしているんですが、あの茎の中自体はスカスカなんです。ほかの植物より、早く大きくなって日の光を浴びようとする作戦なんですよ。

ディティールが複雑だったら人間も撮っていた!?

ー作品にも精緻な自然物の造詣が写りこんでいます。

よく見るとエイヒレに模様が入っていたり、シャコの尻尾にとてもきれいな青が混ざっていたりします。じっくり身の回りのものを観察していると、面白いもの、きれいなものがいっぱいあります。最近話題になっている生物多様性に興味があるんですが、身近なものを撮って、これからも写真を見た人といろんなことを話してみたいと思っています。

ー人物は撮らないんですか?

人間のディティールがもっと複雑だったらいいんですが、ちょっと地味ですよね(笑)。爪や瞳など、きれいなパーツは撮ってもいいかな、とは思っているんですが。

ー今後の予定を教えてください。

10月には、フランスのエビアンで開催されるアートフェアに出品します。そのフェアのキュレーターの方が『Paris Photo』で展示していた、私の猫の目の写真を気に入ってくれて誘ってくれたんです。機会があれば今後も国内外問わず展示をしていきたいです。

ー雑誌や広告などの仕事はしたことがないとお聞きしています。そういう仕事はされないんですか?

在りし日の『STUDIO VOICE』で一度表紙を撮らせていただいたことがあります。営業が苦手なので待つばかりですが、チャンスがあったらぜひ挑戦してみたいです。

ー最後に、撮っていく上での信条のようなものがあったら教えてください。

残酷なもの、悲しいものはなるべく撮らないようにしようと思っています。ある日、私のある作品を見た母が「病気を連想してしまう」って言ったんです。思いもよらないネガティブなイメージを人に与えていたことを知って驚いて。それ以降は見る人がいやな気持ちにならないように気をつけています。これからも、みんなが見て笑ってくれて、楽しい気持ちになるような写真を撮りたいですね。ポジティブなものを撮っていきたいと思っています。

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『OUT of ART / はこぶねのそと』
Profile プロフィール
うつゆみこ
Utsu Yumiko

1978年東京都出身。
2001年早稲田大学第一文学部中退。
2002年東京写真学園/写真の学校修了。

2006年に第26回「ひとつぼ展」でグランプリを受賞。一気に活躍の場を広げ、magical, ARTROOMやひとつぼ展のグランプリ展で実力を発揮、高い評価を得る。個展・グループ展多数。

2008年には韓国・Daegu Photo Biennale、中国での平遥フォトフェスティバルに引き続き、11月のParis Photoでの展示は、雑誌『ART ACTUAL』や『le Figaro』紙など、フランスのメディアで大きく取り上げられた。12月にはブダペスト・LumenGalleryで個展を開催。

2009年1月末、G/Pgalleryで個展を開催。同年11月、Paris Photo出展。12月25日には初の本格的作品集『OUT of ART / はこぶねのそと』を発売(アートビートパブリッシャーズ)。写真集刊行にあわせて2010年1月に個展「はこぶねのそと2」(G/P gallery)を開催。5月にソウルフォト2010、マレーシアのナショナルアートギャラリーで開催される『Tokyo Visualist』に出品。

URLhttp://utuyumiko.cocolog-nifty.com/blog

Item アイテム

撮影にはMamiyaRZを使用。ミリ単位で世界を作り上げるため、細部もクリアに出るようにと接写リングをつける。

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